DACのデジタルフィルター設定は本当に音を変える?リニアフェイズとミニマムフェイズの選び方(KEYSION 02 Pro実測)

ポータブルDACを選ぶとき、DAC内のデジタルフィルター(DAC Filter)設定にリニアフェイズ、ミニマムフェイズ、シャープロールオフ、スローロールオフといった項目があるのを見かけます。実際に音は変わりますが、変化の幅は多くの人が想像するより小さく、ブラインドテストでは一定数の人が設定の違いを聞き分けられません。この記事は、KEYSION 02 Proのようにフィルター設定を備えたポータブルDACのユーザー向けに、各項目が何を変えるのか、切り替える価値があるのはどんなときか、触らなくていいのはどんなときかを整理します。
デジタルフィルターはDACチップがサンプリングデータを処理する工程の一部で、役割は主に二つ。オーバーサンプリング時のイメージ周波数を抑えることと、高域のロールオフの形を決めることです。DA変換の前段で動き、扱うのは0と1だけで、アナログ回路には触れません。
02 Proの搭載する高規格のデコード回路はフィルターを切り替えられます。これが02と02 Proのスペック表にある「DACフィルター」欄の意味です。デフォルト設定はすでにバランスが取れていて、多くの人はそのまま使って問題ありません。
リニアフェイズのフィルターは群遅延が一定で、すべての周波数が同時に届きます。代わりに、信号の前後でわずかなリンギング(プリリンギング)が出ます。ミニマムフェイズのフィルターはリンギングを信号の後に集中させ、立ち上がりが引き締まって聞こえます。ただし群遅延は一定ではなくなり、位相関係にズレが出ます。
単純に言えば、リニアフェイズは時間軸で「均一」、ミニマムフェイズはインパルス応答で「切れ味が良い」。高域の細かい差はサインスイープや矩形波で測定できますが、音楽で感じ取るには注意深く聴く必要があります。
| 設定 | 群遅延 | プリリンギング | 高域の傾向 | その意味 |
|---|---|---|---|---|
| リニアフェイズ・シャープロールオフ | 一定 | 目立つ | ロールオフが急で、イメージ抑制が強い | 測定値はきれい、音は「フラット」寄り。録音によっては歯擦音が硬く感じる |
| リニアフェイズ・スローロールオフ | 一定 | 中程度 | ロールオフが緩く、超高域はやや控えめ | バランス重視。多くの場面で無難なデフォルト |
| ミニマムフェイズ・シャープロールオフ | 一定でない | ほぼなし | 立ち上がりが引き締まり、位相はズレる | 打楽器やエレキギターが「切れる」。ボーカルの定位が少し変わる |
| ミニマムフェイズ・スローロールオフ | 一定でない | 最小 | 最も柔らかく、高域が丸い | 長時間聴いても疲れにくい。やや情報量は減り、長めのリスニング向き |
実測では、02 Proの4.4mmバランス出力はSNR 135dB、歪み -121dB。これらの数値はフィルター設定を切り替えても変わりません。フィルターが変えるのは周波数特性のロールオフ形状と位相であり、ノイズフロアや歪みではありません。
聞こえる場合もありますが、条件があります。音源が十分にクリーンで、ヘッドホンの解像度が足りていて、音量を固定していること。スマホの128kbpsストリーミングとロスレスファイルでは、聞き取れる度合いがまったく違います。
実感として、設定の差はイヤーピースやケーブル、EQを変えるよりも小さいです。ブラインドテストでリニアフェイズとミニマムフェイズを安定して聞き分けられる人は多くなく、大半の人はA/Bを素早く切り替えてやっと気づく程度。曲を一曲聴けば忘れます。フィルターで問題のあるシステムを救えると思わないほうがいいでしょう。
試す価値があるのは三つの場面です。打楽器やメタル、エレクトロニカで立ち上がりが「にじむ」「柔らかい」と感じるなら、ミニマムフェイズのシャープロールオフを。長時間聴いて疲れる、高域が刺さるならスローロールオフを。ロスレス音源に変えてシステムのボトルネックを洗い直したいなら、設定を変数の一つとして扱ってみてください。
スマホでストリーミングを聴くだけなら、デフォルトのままで十分です。フィルターの効果は、装着感や音源の質、ヘッドホン本体を先に整えることよりずっと小さい(ロスレス音楽の入手先と装着と密閉を参照)。
フィルターの負荷はサンプリングレートに依存します。44.1kHzではイメージ周波数がオーディオ帯域に近く、フィルターに高い負荷がかかります。96kHz以上になるとイメージ周波数が遠くなり、ロールオフを緩めにできて、設定間の差はさらに縮みます。高サンプリングレートではフィルター設定の存在感が薄くなるのです(サンプリングレートの解説を参照)。
DSDのノイズシェイピング経路はPCMとは異なります。02 ProのDSD Nativeモードでのフィルター挙動はPCMモードと完全には一致せず、これもDSDとPCMの論争の一面です(DSD vs PCMを参照)。
同じ曲で音量を固定し、プレイヤーやポータブルDACの設定で二つの設定を素早く切り替えて、三往復以上試します。毎回同じ箇所で同じ違いが聞こえれば、そのシステムはこの要素に敏感ということ。三回中二回わからなければ、この変数は自分にとって意味がないので、音源とヘッドホンに注意力を回しましょう。
本記事はKEYSIONオーディオラボのエンジニアが執筆。KEYSION 02 Pro、KEYSION 02、KEYSION 01の実測データとチップの公開資料をもとに整理しています。意見は個人の判断であり、購入の参考としてお読みください。
FAQ
DACのデジタルフィルターは何をするもの?
DA変換の前にサンプリングデータを処理する工程で、オーバーサンプリング時のイメージ周波数の抑制と、高域ロールオフの形状決定が主な役割です。ノイズフロアや歪みは変えず、周波数特性と位相のみを変えます。
リニアフェイズとミニマムフェイズはどちらがいい?
絶対的な良し悪しはありません。リニアフェイズは群遅延が一定で時間軸が均一ですがプリリンギングがあり、ミニマムフェイズは立ち上がりが引き締まりますが位相がズレます。大半の人はブラインドで聞き分けられないため、好みとシステム次第です。
02 Proのフィルター設定はどこで切り替える?
付属のプレイヤーアプリかポータブルDACの設定内のDAC Filter関連項目を探します。アプリによって場所は違いますが、通常はオーディオ設定かサウンド設定の中にあります。切り替えは即時反映され、再生中でも操作できます。
フィルターを切り替えるとSNRや歪みは変わりますか?
変わりません。フィルターが変えるのはロールオフ形状と位相で、02 Proの4.4mm端子のSNR 135dB、歪み -121dBは設定に左右されません。ノイズフロアや歪みを改善したければ、設定ではなく機器の見直しです。
フィルターを触らなくていいのはどんなとき?
スマホでストリーミングを聴く、高域に敏感でない、あるいは装着や音源、ヘッドホンなど他に明確な弱点がある場合はデフォルトで十分です。フィルターの可聴差はイヤーピース交換やEQ変更より小さいのが通常です。



